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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)568号 判決

主文

原判決中被告人林文瑞に關する部分を破毀する

右被告人に對する事件を東京高等裁判所に差戻す

その餘の被告人に關する上告を各棄却する

理由

辯護人横田隼雄上告趣意第二點について。

所論の通り原判決は、被告人林文瑞の原審公判廷における判示と同旨の供述及び醫師伊達慶郎の作成した死體検案書中許欽爍の死因と死亡時間につき判示と同旨の記載を綜合して、判示第二の事実を認めているけれども、右の死體検案書を原審公判廷において被告人林文瑞に讀み聞かしてその意見辯解の有無を訊ねた旨の記載は、原審公判調書の中に見當らない。結局原判決は、適法な證據調を経ない從ってまた證據能力の無い同検案書を證據として事実を認定したものであって、採證の法則に違背し破毀を免れない。論旨は理由がある。

同上第三點について。

被告人等の生年月日が何時であるかということは、事実問題であって、その認定は原審の専権に屬し、原審が、被告人等の供述に基いて、その生年月日を認定したことには、何等の違法もない。原審が、被告人等に對する裁判権は日本の裁判所に屬すると認めたのは、記録の上で明かなように、日本の裁判所が昭和二十一年五月八日附聨合軍政府當局より東京刑事地方裁判所に對する刑事裁判管轄に關する指令書によって、被告人等に對する本件被告事件の裁判権を與えられたからであって、必ずしも被告人等の本籍に關する供述を措信しなかったためではない。論旨は原審の事実認定を非難するに歸し理由がない。(その他の上告論旨に對する判斷は省略する。)

なお職権を以て調査してみると、原判決がその主文に於て、被告人林文瑞に對して罰金五百圓の言渡をしながら、これを完納しない場合労役場に留置する期間の換算を言渡していないことは、刑法第十八條第四項に對する違反である。

しかして、前記原判示第二事実に關する違法は被告人林文瑞に對する事実の確定に影響を及ぼす虞があるから、原判決中同被告人に關する部分を破毀して、その事件を東京高等裁判所に差戻すこととし、その餘の被告人に關する上告はいづれも理由がないから、これを棄却することとし、刑事訴訟法第四百四十八條ノ二及び第四百四十六條に從ひ主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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